クレーム対応はその難易度が高くなればなるほど多面的な判断を必要とし、「決めて」「正解」というものが残念ながらありません。だからといって何も準備をしておかないと難クレームは大きな問題に繋がってしまい、組織を根底から揺るがしかねない事態に瞬く間に発展する危険性を否定できません。
また難クレーム対応ほど「しんどい」「きつい」業務はありません。私も何度も経験していますが時間や体力を消耗するだけではなく、人格まで否定されることがしばしばあります。難クレームと一言で言っても損害賠償などを狙った公序良俗を逸脱した悪質な難クレームとそうではない正当な難クレームに分かれますがその境界線ははっきりしないのが一般的です。どちらかというと今日のランキングの上位になればなるほど悪質な難クレームの性質を帯びていると一般的には言えます。
その悪質なクレームの所謂クレーマーと呼ばれる人たちは、以前この記事でも少し触れましたが、天使のような優しさと般若のような恐ろしさの両極端の顔を持ち、その二つの顔で強弱や緩急をつけて私たちを揺さぶり弄びます。また長期戦にも耐えうる持久力と狙った獲物は簡単にはあきらめない強い執着心を持っています。本当に手強い相手ですが組織を守っていく以上誰かがこの難クレームのクレーマー達と対峙せざるを得ないのです。
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そういった意味においても難クレームの傾向を知り必要最低限の基本的な対応策と落としどころを共有しておくことで、それを拠りどころとして応用的にケースバイケースで問題解決していくことがより可能になると考えています。今日は本当に「しんどい・きつい」難クレームと呼ばれるクレームベスト10を例に取ってその「傾向と対策」と「落としどころ」を難クレームに対応する基本として紹介いたします。
クレームベスト10
- 第一位 暴力団(をにおわす人)からのクレームを受ける
- 第二位 金銭解決を匂わされる
- 第三位 法律や社内ルールでできないことを要求される
- 第四位 「訴えてやる」「法的手段に出る」「出るとこに出る」と言われる
- 第五位 商品やサービスの欠陥で体調に異変を生じたと言ってくる
- 第六位 消費者機関や関係官庁へ申し立てられる(申し立てると威嚇される)
- 第七位 先方で話がこじれ密室で一対一になり帰してくれない
- 第八位 相手が泥酔していてまともに話せない
- 第九位 「若造じゃあ話にならない」「女じゃ話にならない」「上を出せ」と言われる
- 第十位 同じ内容のクレームが長期間続く
第一位 暴力団(をにおわす人)からのクレームを受ける
【傾向と対策】
- 最初から金銭を目的とした言いがかりというか悪質極まりないクレーム
- 「俺を誰だと思っているんだ」と高圧的にすごい剣幕で凄んでくる
- 「街宣車を乗り付ける」とか「若い衆を集める」などと脅してくる
- 大人数で挑発されても相手より多い人数で冷静に対応し挑発に乗らない
- できれば録音するか防犯ビデオ撮影エリア内で対応する
- 事務所に一人で来るように言われても絶対に行かない
- 相手から強要されてもむやみに書類作成、署名、押印はしない
【落としどころ】
暴行罪、傷害罪、逮捕・監禁罪、脅迫罪、強要罪、住居侵入・不退去罪等に抵触したと判断した場合は警察と連携する
第二位 金銭解決を匂わされる
【傾向と対策】
- 「誠意を見せろ」と何度も何度も繰り返し強く言われる
- 問題をすり替えて寄付や広告掲載や機関紙購読等の交換条件を出してくる
- クレームに直接関係ない要求は全く別物と考え混同しない
- 毅然とした態度で「誠意とは具体的にどういうことですか」と確認する
- どのような状況でも金品を要求すると恐喝罪に問うことができる
- 少額だからといって安易に金銭解決を図ると再発する悪い前例となる
【落としどころ】
恐喝まがいのことを言われたら速やかに警察(上司、法務担当者)へ通報
やむを得ず金銭解決の場合は必ずエビデンス(領収書、示談書)を残す
第三位 法律や社内ルールでできないことを要求される
【傾向と対策】
- 法律に抵触することがわかっていてもあわよくばと考えて言ってくるケースが多い
- もって行き場のない怒りを八つ当たり的にぶつけてくるケースもある
- お客様の話を傾聴した上で違法性や矛盾点を焦らず丁寧に説明する
- 自社ルールを逸脱する場合はプロとしてお客様と一緒にベストな解決策を考える
- 「規則ですから」みたいな押しつけ対応で「お前らの勝手な理屈だ」とお客様を硬化させない
- 自社ルールの場合は誠意をもって組織で対策検討しそのことをお客様に報告する
【落としどころ】
違法行為は毅然としてきっぱりと断り場合によっては法的手続きを取る
第四位 「訴えてやる」「法的手段に出る」「出るとこに出る」と言われる
【傾向と対策】
- 「訴えてやる」=「超怒っている」という意味で本当に訴えるケースは極めて少ない
- 具体的な損害の事実がなければお詫びしただけで裁判で不利になるということはないので機を逸することなくお詫びする
- お客様の事情や心情の理解に最大限の誠意を尽くす
- 丁寧に話を聞いても解決に向かわない場合は上司や弁護士に引き継ぐ
- 早めに上司や法務担当者に一報いれておき準備しておいてもらう
- 念書や始末書等の書類作成は絶対に避ける
【落としどころ】
裁判所やお客様の弁護士からの連絡をひとまず待つ(ほとんどない)
第五位 商品やサービスの欠陥で体調に異変を生じたと言ってくる
【傾向と対策】
- 自社に責任ががあるかどうかを前面に出さずまずはお客様の体調を気にかける
- 「うちの責任ではない」と繰り返し主張しない
- 冷静にお客様の話を聞き、事実を正確に把握する
- クレームの内容と自社の商品やサービスの因果関係を精査する
- 実際に自社に原因があって大規模な問題に発展する可能性もあるので安易な行動をとらない
- 産業医や先方の医師に入念に照会し専門的なアドバイスを受ける
【落としどころ】
因果関係を中心とした正確な事実確認をした上でお客様に経緯を真摯に説明する
第六位 消費者機関や関係官庁へ申し立てられる(申し立てると威嚇される)
【傾向と対策】
- 外部機関に申し立てることは当然の権利なのでお客様の判断に任せる
- 「どうぞどうぞ」と開き直るのではなくお客様の意思を尊重する姿勢を見せる
- 外部機関に対しては迅速で慎重に的確な対応を取る
- 外部機関に対しては堂々と事実に基づいて回答し理解を求める
- 外部機関は文書の提出を要請されるので細心の注意を払って作成する
- お客様にも外部機関にも組織として裏表のない一貫した対応を取ることが重要
【落としどころ】
お客様への対応は外部機関が直接行うことになる場合が多いので外部機関の指示を仰ぐ
第七位 先方で話がこじれ密室で一対一になり帰してくれない
【傾向と対策】
- 以前からお付き合いのあるお客様が自分の庭(テリトリー)で激怒することは案外よくあるケース
- 土下座をしばしば強要される
- 要求をのむまで軟禁状態になる(帰してくれない)
- お客さまの話をとことん聞き冷静さを徐々に取り戻してもらう
- パニックになって怯えると火に油を注ぐように怒りが増すので毅然と対応する
- 上司・同僚には必ず外出先を報告しておき異変が生じた場合は職場に電話を入れて気づいてもらう
- こじれる可能性のある訪問をする場合は玄関先でお話しするかできるだけ複数での訪問を心掛ける
【落としどころ】
持ち帰って検討する旨を伝えそれでもダメなら手段を選ばずその場からとにかく退避する
第八位 相手が泥酔していてまともに話せない
【傾向と対策】
- 話が支離滅裂だったり事実でないことを言われる
- とにかく自分の意見を強引に通そうとする
- こちらの話が理解されているかどうか判断がつかない
- 理解することが困難であっても一定時間はひたすら話を聞く
- 酔って暴れている場合は警察に通報
- 話を伝えるのは難しいがなんとか日を改めるようにその場は一度切り上げる
【落としどころ】
ほとんどの場合は酔いが覚めればまったく覚えてないかすんなり納得してくれる
第九位 「若造じゃあ話にならない」「女じゃ話にならない」「上を出せ」と言われる
【傾向と対策】
- 社長や上司を呼ぶように言われまったく話ができない
- お客様は決定権のある人と話したほうが要求が受け入れられやすいと考えている
- 性別や年齢に関係なく自分は責任を持って働いていることを伝える
- 自分は実務に関わっていて上司より詳しい話ができることをアピールする
- 一定時間対応しても解決しない場合は上司に引き継ぐ
- お客様の話を復唱しながらメモを取り正確に上司に引き継ぐ
【落としどころ】
上司が出てきたことでお客様に一種の達成感があり徐々に冷静になる
第十位 同じ内容のクレームが長期間続く
【傾向と対策】
- 不具合の因果関係が曖昧だったり症状が再現しなかったりすると起こる
- いくら調査しても原因も被害の程度もはっきりしないことが多い
- 不具合が出るたびに休日・夜間お構いなしに呼び出される
- クレームがころころお客様の気分で変わる場合があるので対応を書面で残す
- 担当者レベルで責任感を強く感じすぎてが頑張りすぎないように注意する
- もう限界と言い残して病院に直行することにならないように
【落としどころ】
上司に支援を要請し組織全体で情報共有し原因究明し組織として対応する
以上が「しんどい・きつい」難クレームベスト10にみる「傾向と対策」と「落としどころ」マニュアルです。難クレーム対応といっても特殊な技術や対応の方法があるわけではありません。ある一定の悪質な難クレームを除いて、あくまでも正当な苦情に対するお客様の要求に対応する延長線上にあるのが基本です。
ただそれが何らかの要因でこじれて難クレームになってしまったと判断した時は上記のような基本的な姿勢と対応で対処しましょう。そうすれば無理な解決や一方的に不利な解決をすることなく公平で透明な解決をすることができるはずです。
最後に今日の記事の全体を通じて必要な基本姿勢を掲げて締めくくります。
難クレーム対応の基本姿勢
・冷静な対応をする
・安易に金銭解決をしない
・毅然とした態度をとる
・根気負けしない
・最後は原理原則を貫く
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