私は今でも年に何件かクレームを受けます。立場的に総務部長ですので最後の砦というか私が受けるクレームは弁護士にお渡しする一歩手前のものが比較的多いのが実情です。消費者センターに駆け込むぞとかは序の口で、土下座を強要されたり、街宣車を乗りつけると脅されたり、金品を要求されたりしたことがありましたが、そのような非常に複雑で裁判になってしまう直前のような難しい案件も実は初動でちょっとしたことを注意していれば火を消すことができたのではないだろうかと思い返すことが少なくありません。
ひとつ実例を出してお話しすると、そのお客様は30歳前後の女性で毎日1時間以上のクレームをほぼ1週間毎日のように電話で入れてきていて、さすがに現場の担当者も自分の業務にも支障をきたし、手に負えず私にヘルプを入れてきました。内容としては客観的に見るとどうしても対処することができないような要求(クレーム)でした。(具体的な内容は割愛します、悪しからず)
担当者
「今受けているクレームのお客様が何故ここまでお怒りになられているかよくわからないのです。内容としてはどうしても対処することができないことなのです。」
そこで私が替わってお話を聞くことになりました。そのときは今日ご紹介する「クレーム対応マニュアル」をもう一度読み返し、気持ちを引き締め、心を落ち着かせ対応しました。電話を入れると、担当者が泣きを入れるのも仕方ないほどそのお客様はすごい剣幕というか興奮していて感情的になっていました。どうにもならないことを約1時間ほど怒りにまかせて一方的にまくし立てた後で、急に落ち着きを取り戻してこのようにお話しになりました。
お客様
「私が何故ここまでしつこくしてるか教えましょうか。私だって馬鹿じゃないし、今言ってることがどうにもならないことだってわかってる。でも最初ちょっとそのことを疑問に思って電話で問合わせた時に最初に対応した人に舌打ちされたの。ふてぶてしい顔が電話の先で見えちゃったの。それがとても馬鹿にされているようでどうしても許せなかったの。でももういいわ、ありがとう」
これは大変だったけどお客様の本心が最後に聞けてちょっとうれしかったクレーム対応のひとつですが、このようにクレームを大火事にしてしまっているのは「舌打ち」のようにちょっと気をつければ防げることが発端になっていることが実は少なくないような気がしています。無論最初に対応した担当者に確認したところ「舌打ち」なんかするはずがないと泣きべそをかきながら言っています。真偽のほどは今となっては知る由もありませんが、もしかしたら「心の舌打ち」がお客様に伝わったのかもしれません。
このようなことにならないように「クレーム対応マニュアル」を社内で作成していますのでその基本的な部分を今日は少しお見せしたいと思います。お客様に接触しない仕事は非常に少ないと思いますし、製造物責任とかの考え方も一般になっていますので、クレーム対応に無関係と断言できる仕事はほぼ皆無と言っても過言ではないと思います。是非一度読んでいただいてそれぞれの立場、立場でイメージしていただければと思います。
クレーム対応の基本 として大きく5項目まとめています。
1)心構え
2)対面応対
3)電話応対
4)訪問応対
5)文書応対
今日は最初の 1)心構え を中心にご紹介いたします。
◆クレーム対応基本 その1 心構え◆
お客様からのクレーム(苦情・お問い合わせ等)は、謙虚にお客様の立場に立って誠意をもって対応する
3つの基本原則
- 適切な挨拶と名乗り
「第一印象は本当に重要」
- お詫び
「お詫びしたから裁判で負けてしまうとか不利になるというのは誤解」
- 真摯で誠意ある姿勢
「態度、表情、声をすべてフルに使って全身で共感を示し心情を理解する」
6つの姿勢
- 誠意
「真心を持つ」
- 迅速
「プライオリティの高さを示しお客様軽視を感じさせない」
- 積極
「後手後手に回して事態を必要以上に大きくさせない」
- 謙虚
「まずは心情を理解し不快にさせたことを反省する」
- 公平
「悪質なクレームにも慎重に原理原則で対応する」
- 透明
「情報を開示することでお客様との信頼関係を築く」
6つの行動
- お客様の話をよく聞く
「お客様の話は最低3分間くらいは否定せずにじっくりと聞き役に回って聞いてください。お客様の話は大部分の場合3分間も続かないですし、そうするとお客様も冷静になってきて徐々に気持ちも鎮まってきます。あいづちやうなづきや復唱もわざとらしくならないよう注意していれることでお客様にちゃんと話を聞いてくれているんだなという安心感を持ってもらいましょう。」
- 事実確認を充分行いお客様の言い分を正確に理解する
「動揺せずに、慌てずに何が問題になっているかを把握し、お客様が困っている事実と心情を正確に理解して、どうすればよいのか考えましょう。お客様が話しているときは話の腰を折らないように注意して、いつ、どこに、何が、どうなって、どうして欲しいのかを質問をはさみながら聞き出し、必ずメモを取りましょう。尋問調や事務的にならず共感を表すことを忘れないでください。」
- 判らないことを曖昧に答えない
「パニックになって慌ててしまうとよく理解していない知識不足の事柄に関して間違った説明をしてしまいがちです。正確でない間違った説明ほどクレームに直結するものはありませんので、そんなときは自分の判断であやふやな軽はずみな言動は絶対に謹み、持ち帰って調べさせて欲しいとか、専門の部署や上司の判断を仰ぎたい旨を回答するようにしてください。また常日頃から商品やサービス知識の習得に努め、併せて関連法規等の知識の習得も心がけてください。」
- 言い訳をしたり自分の理論や自社ルールを主張しない
「言い訳や自分の理論を強弁をしてしまう理由はお詫びができない心理に近いものです。クレームを自分への攻撃のように感じ知らず知らずに心が防戦してしまっているのです。怒っているお客様に対して言い訳をしたり、自分の理論を主張したり、自社ルールを盾にとったり、お客様の間違いを指摘して反論することはお客様の気持ちを逆なでし態度を硬化させてしまい大きなクレームに発展しがちです。当方の理論を一方的に押し付けるのは謹みましょう。」
- 出来ることと出来ないことをはっきり伝える
「法律的にできないことを要求されることは残念ながら非常によくあります。そのようなお客様は法律に抵触することを知りつつもあわよくばと考えて要求してくる場合もあれば、行き場のない怒りを無理を承知でぶつけてきている場合もあります。当然法に触れることはできませんので、毅然とした対応を取り過大な期待をお客様に抱かせないようにしてください。その際も聞き役に徹し疑問点に真摯に答えお客様に最終的に納得していただくように心がけてください。」
- 人間的な暖かさを失わない
「あなたに言われれば仕方がない、というセリフがお客様から聞けたらクレーム対応はほぼ完璧と言えます。そのためにはお客様の事情だけでなくお客様の背景に対してまでも深く共感していることを伝えることが重要です。お客様の事情と背景を的確に把握するには、積極的に経験を積み、業務知識を幅広く増やし、クレームに対して余裕を持って、落ち着いて、真心を持って、暖かい余韻のある対応するしか方法はありません。お客様が自分の言っていることに親身になって耳を傾けてくれてた、ありがとうと言っていただけるように心がけてください。」
以上が社内の「クレーム対応マニュアル」基本項目と呼べる部分です。2)対面応対~5)文書応対 は今回は触れませんでしたし、これ以外にも、クレーム対応の具体的実務、難クレーム対応のフロー、クレーム対応Q&A、クレーム対応の関連法規などもまとめてありますが、また機会がありましたらご紹介したいと思います。
企業を取り巻く環境は大きく変化していますし、社会が発展すればするほど企業とお客様に大きな情報格差が生まれ、それによってクレーム(苦情や問い合わせ)が今後ますます増加していくと思います。事実消費者からの相談件数も年々増え続けているそうですので、今日紹介したことが良いクレーム対応のためのヒントになれば幸甚です。
★総務部長のミッション
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