マネージャーは「業績達成」と同じくらいの重要度で「部下の育成」というミッションが課せられています。業績達成にばかり注力してしまい部下の育成まで手が回らず後回しにしているケースもありますが、今日紹介するような全く誤った手法で部下を育成(という仮面を被ったパワハラ)しているケースもあります。この場合は所謂「パワーハラスメント(パワハラ)」と呼ばれるトラブルに発展していく可能性があります。
パワハラは被害者(部下)の人権が深く傷つけられるだけではなく、働く意欲の減退や自信喪失、こころの健康悪化に繋がり最悪の場合は職を失うケースすらあります。また同時に処分される加害者(上司)の一生も狂わせてしまいます。企業にとっても人材の損失や生産性の低下は避けられず、場合によっては法的な責任も問われかねません。そうなると企業イメージに深刻なダメージを与えることになります。
このように「部下の育成」が一歩間違えて「パワハラ」になってしまうとパワハラを受けた人もパワハラを行った人も企業も甚大な損失を被ることになるのです。
ではどこまでがパワハラになるのでしょう?
厚生労働省の「職場のパワーハラスメント対策ハンドブック」によるとパワハラの概念は、
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場に働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職業内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
となっています。またどのような行為がパワハラにあたるのかというと、
【1】(身体的な攻撃)暴行・傷害
【2】(精神的な攻撃)脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言
【3】(人間関係からの切り離し)隔離・仲間外し・無視
【4】(過大な要求)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害
【5】(過小の要求)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、仕事を与えない
【6】(個の侵害)私的なことに過度に立ち入る
となっていて、さらにこれらに限定されないと(網羅されていない)となっています。
では実際の事例に当てはめてどのようなことがパワハラになるのか具体的に見ていきます。
実際はこれらが混合して行われていることが多いです。
パワハラ具体例
【1】暴行・傷害
【タイプ】
肉体的・物理的な力でなぐる、蹴る、胸ぐらをつかむ、ネクタイを引っ張る、髪の毛を引っ張る、ものを投げつける、大音量の音を聞かせるなど。
【厚労省HPの具体例】
・叱りながらものさしや書類で頭を小突く
・ものを投げつけたり、ごみ箱を蹴りつける
【境界線チェック】
暴力をふるうことは刑法に触れ、いかなる理由があっても許されません。他人に傷害を負わせると傷害罪、相手に暴行を加えたが相手が傷害を負わなかった場合は暴行罪となります。
チェックをするもしないもすべて有無を言わせずNGです。
【ひとこと言わせて】
どんなに軽くても暴力をふるった時点であなたは「立派な犯罪者」
【2】侮辱・暴言
【タイプ】
言葉によって相手を傷つける、人間性を否定する、バカにする、心理的に追い詰める、人前で大声で怒鳴る、長時間叱責し続けるなど。
【厚労省HPの具体例】
・部下のミスに対し、人前で強い口調で叱責する
・「バカ」「愚図」「のろま」など屈辱的な言葉で叱責する
・「お前なんかクビだ」と脅かす
【境界線チェック】
屈辱感と恐怖が蔓延している職場では部下は委縮してしまいのびのび育つことなどできません。また侮辱・暴言は名誉棄損罪や侮辱罪に問われることもあります。上司のコミュニケーション能力や指導スキルの見直しが急務です。
・業務上必要性のある指導なのか、
・人前で見せしめのようになっていないか、
・叱責が不必要に長時間になっていないか、
などをチェックする必要があります。
【ひとこと言わせて】
「お前はクビだ!」と部下に言ったお前がクビになる
【3】仲間外し・情報を伝達しない
【タイプ】
人を孤立させていじめる、他者との接触を制限する、悪い評判を流す、情報を伝えない、飲み会に呼ばないなど。
【厚労省HPの具体例】
・挨拶をしても無視し、会話をしない
・必要な情報、指示を与えない
・部署全体の食事会や飲み会に誘わない
【境界線チェック】
仕事の情報を伝えないのはどう考えてもいじめ行為です。集団で特定の人をターゲットにして集団いじめが発生している場合は、
・一方的に被害者に非があるように言われていないか、
・被害者に対して強い敵意のフィルターを通して見ていないか、
などをチェックする必要があります。
また集団いじめによる加害者と企業の責任が問われ労災認定となった事例もあります。
【ひとこと言わせて】
いじめている人もいじめられている人も「人の子であり人の親」
【4・5】不適切な業務管理(過大・過小な要求)
【タイプ】
不適切な質や量の仕事を部下に与え、結果的に部下が心身の不調をきたしたり退避傾向に陥らせてしまう、過剰な目標(ノルマ)を与える、非常識に長時間労働させる、不法行為を強要する、仕事をまったく与えない、本人の能力からみて極端に低いレベルの仕事しか与えないなど。
【厚労省HPの具体例】
・過重なノルマや一人では無理な仕事量を与える
・いつも終業間際に過大な仕事を課す
・突然、まったく経験のない重要な義務を課す
・その人の能力や経験に見合わない程度の低い業務を課す
・仕事を与えず、通常業務に属さない雑用を強要する
【境界線チェック】
長時間労働・過重労働や逆に仕事をさせてもらえないことでメンタル不調になり自殺や疾患で死亡した場合や後遺症が残った場合には経営者や上司に損害賠償の責任がかかる場合があります。
・マネージャーが適切な勤怠管理を行っているか、
・職場環境改善を行っているか、
・日頃から部下の相談にのっているか、
などをチェックする必要があります。
【ひとこと言わせて】
「俺は昔やっていた」と言って部下を昔の自分と同じように過重労働させるあなたは今や化石か鬼
【6】過度なプライベート干渉
【タイプ】
恋愛や結婚、出産、宗教、趣味などのプライベートなことにまで私的な価値観を押し付けて部下に指示する、批判する、困らせる、不快にさせる、部下を業務外で私的に使うなど。
【厚労省HPの具体例】
・必要以上に仕事を監視したり関与したりする
・交際相手の有無を聞かれ、結婚を推奨する
・個人の宗教について公表し批判する
・緊急の仕事ではないのに休日や夜間に連絡を入れる
【境界線チェック】
職場でプライベートの話をするときは話題を慎重に思いやりをもって選ぶ必要があります。お互いを尊重し、傷つけ合うことなく気持ちよく働きたいものです。
・業務上必要な範囲内で留まっているか
・部下との信頼関係やコミュニケーションが取れているか
・言われている本人が心の底で傷ついていたり不快に感じていないか、
などをチェックする必要があります。
不特定の複数の人に対して特定の人のプライベートを晒し、社会的評価を下げるような発言をした場合は、悪気があろうとなかろうと名誉棄損罪や侮辱罪に問われかねません。
【ひとこと言わせて】
どこまで言うこと聞かなきゃいけないの?プライベートくらいは好きにさせてよ
以上が厚生労働省がパワハラと認めた行為のタイプ別に見たパワハラになるかかどうかのチェックポイントでした。育成はマネージャーにとって本当に大切で重いミッションです。育成なしには企業は発展できません。でもその育成スキルが低かったり自分のストレスの発散を兼ねて育成という仮面を被ったパワハラをやられたのでは部下は可哀そうすぎます。是非私も含めて今日挙げたタイプのようなパワハラをしてしまっていないか自己チェックしたいものです。
【まとめ】チェックポイント
わかりやすいチェックの方法として3つほど挙げておきます。
- お客様(取引先)にも同じことが言えるか、できるか
- 自分の上司の家族にも同じことが言えるか、できるか
- 自分の家族が同じことを言われたりされたりしても許せるか
これらを自問自答してすべてセーフであればハラスメントとはなっていないでしょう。
育成という仮面を被ったパワハラがひとつでも減ることを祈念して今日の記事は締めさせていただきます。最後までお読みいただきましてありがとうございました。

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